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原題 The Oldest House in London
著者 Fiona Rule 
ページ数 288
分野 社会/歴史/地理/
出版社 The History Press
出版日 2023/8/31
ISBN 978-1803993782
本文 英国ロンドンの中心部、シティ・オブ・ロンドンの北西部にあるスミスフィールド・マーケットの東側に位置するクロスフェア通りの 41-42番地には、ロンドンで最も古い家がひっそりと建っている。この家は1614年に個人の住居として建てられ、現在も変わらず住居として使われている。外観からは、一見して、ロンドンで最も古い家とはわからず、その歴史的価値にもかかわらず、多くの人はこの家の存在すら知らない。

本書は、このロンドンで最も古い家について綴られた歴史書である。この家がある地域で人々が経験した戦争、ペストなどの疫病、大火事や嵐といった自然災害、宗教的対立、そして経済的な危機が、綿密な調査を通じて、詳しく書かれている。生き生きと、時にはその厳しい現実とともに描かれる人々の生き様は読者をひきつける。

本書の表紙に書かれているように、「イギリスの建物は独特な歴史を持っているのだから、それを掘り起こすだけで」十分に面白いかもしれない。だが著者の緻密なリサーチと、壮大な歴史における些末な出来事を明らかにする洞察力により、単なる歴史の記録は生きた物語としてよみがえり、本書をそこに生きた人々の息遣いさえ感じさせる「読むパノラマ」を生み出している。

興味深い歴史を持つのは、宮殿や大邸宅だけではない。今日もクロスフェア通りに静かに佇む、ごく普通のこの家にも人々を魅了する歴史がある。例え普段は歴史に興味のない読者でも思わず夢中になって読み進めてしまい、ロンドンへの新たな興味を抱くことだろう。