ブックレビュー
| 原題 | Antisemitisms |
|---|---|
| 著者 | Sander L. Gilman (Author) |
| ページ数 | 304 |
| 分野 | 歴史、社会、宗教 |
| 出版社 | Reaktion Books |
| 出版日 | 2026/05/01 |
| ISBN | 978-1836391807 |
| 本文 | なぜユダヤ人は憎悪や迫害の対象であり続けるのか? 著者は、19世紀に成立した反ユダヤ主義の思想には一貫性が無く、その時代の権力者の意図に応じて都合よく利用されてきたと指摘する。また、ユダヤ人像として語られてきた特徴にもまったく一貫性が無く、その時代によって、排斥や暴力を正当化するために都合の良い論理が使われていた。著者は、通常、不可算名詞として使う、antisemitism(反ユダヤ主義)という語をあえて複数形で用いている。これは、反ユダヤ主義の意味内容が、その時代の状況や場所によって変わり、単一のものではなく複数存在する、ということを表すためである。この点を明らかにするため、著者は次の4つの視点から事例研究を行い、非常に幅広い時代や分野の具体例を取り上げている。 1.ユダヤ人の外見について 帽子、あごひげ、顔の特徴、整形手術などを取り上げ、ユダヤ人に付与されてきた外見上の特徴と、それに対する社会の反応を、主に近代ヨーロッパから現代のアメリカにかけての具体的な例を通して論じる。 2.病気について 14世紀にヨーロッパで猛威を振るった黒死病がユダヤ人の仕業によるものだとされた話で始まる。さらに、ユダヤ人は病気に対して免疫をもっているとする偏見や、高血圧や心臓病、糖尿病が多いという説を取り上げる。また、病気と人種・民族の関係についての現在の研究についても、その危うさを指摘している。 3.定住性について ユダヤ人はノマド(定住しない人々)であるという固定観念について検証する。ユダヤ人は何世代も前から住む民族の土地にやってきて、寄生するかのように住みつき、経済的成功を収めるという俗説がどのように形成されたのかを論じる。19世紀中頃にはユダヤ人の定住性は西ヨーロッパでは明らかな事実になっていたが、自分たちの国から去ってほしいと考える人たち依然として存在していた。 4.自己嫌悪について ユダヤ系アメリカ人である著者が反ユダヤ的だと非難された経験を含め、フロイトとその娘アンナ・フロイトの研究などに言及し、社会適応の過程における、弱者やマイノリティーが抱きうる自己嫌悪について論じる。さらに、多くのユダヤ人の文化人や教育者の発言を引用して、自己嫌悪の構造を分析している。 反ユダヤ主義がいかに時代ごとに姿を変え、社会に利用されてきたのかを問い直す、示唆に富んだ一冊である。 |